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鳥取地方裁判所 昭和23年(行)17号 判決

原告

中島政実

被告

鳥取県農地委員会

主文

原告の訴はこれを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

請求の趣旨

被告が昭和二十三年六月十日為した裁決を取消す鳥取県八頭郡若桜町農地委員会が昭和二十三年一月九日同県同郡若桜町字広原千百七十五番の一田一反七歩の内四畝二十八歩について樹てた買収計画これをを取消す訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、その請求の原因として、

原告は鳥取県八頭郡若桜町字広原千百七十五番の一田一反七歩の内四畝二十八歩を所有しているところ同郡若桜町農地委員会が自作農創設特別措置法の規定に基ずき右土地を小作地であるとして昭和二十三年一月初旬買収計画を樹立したのでこれに対し異議の申立を為し同月九日この異議申立を棄却せられたため更に被告に対し訴願をしたのに拘らず同年六月十日この訴願を棄却せられ同年七月二日その旨の通知を受けた、しかし右土地は原告が訴外山本重好に賃貸し耕作させている中同人において昭和二十一年五月中原告に無断で訴外成川福男盛田房太郞盛田幸市の三名に転貸したので原告は同年七月二十六日民法第六百十二条の規定に基き賃貸借契約解除の意思表示を発しこの意思表示は同月二十八日山本重好に到達し右契約は同日解除せられたそこで原告は直ちに右土地の耕作に着手したところその翌日右成川福男、盛田房太郞、盛田幸市の三名は暴力を以て原告から右土地を奪い甘藷苗を植え付け爾来同人等において耕作を継続しているがかかる場合は原告は一時暴力により右土地の耕作を阻害されているに過ぎないからこれを原告の自作地と認むべきであるのに若桜町農地委員会かこの事情を看過しこれを小作地であると誤認して右買収計画を樹立したのは違法であり従つて又被告がその計画を適法と認めて為した右訴願棄却の裁決も違法であるからその各取消を求めるため本訴に及んだ旨述べ被告の抗弁事実中賃貸借契約解除につき農地委員会の承認を受けていない事実を認めその余の事実を否認した。(立証省略)

被告指定代理人は原告の請求はこれを棄却する訴訟費用は原告の負担とすとの判決を求め答弁として原告主張の日その主張のような買収計画異議申立、異議申立棄却決定、訴願、訴願棄却、裁決、その通知が為された事実、原告がその主張の土地を所有し訴外山本重好に賃貸し耕作させていた事実はこれを認めるがその余の事実を否認する仮に原告主張の通りの事実関係であるとしても原告はその主張の賃貸借契約解除につき若桜町農地委員会の承認を受けていないから農地調整法第九条の規定により右賃貸借契約解除は無効と謂うべく従つて右土地は訴外成川福男外二名において山本重好から適法に転借し耕作している小作地と謂わねばならぬから被告がこれを小作地と認めて買収計画を樹てたことに何等の違法はなく又仮に右賃貸借契約解除が有効であるとしても尠くもこれより先の昭和二十年十一月二十三日当時は山本重好の耕作していた小作地と認むべきであるところ若桜町農地委員会は自作農創設特別措置法第六条の五の規定によりその当時と本件農地買収計画を定めた昭和二十三年一月初旬との間において権原に基き耕作の業務を営む者が異ると認めて昭和二十年十一月二十三日現在における事実に基き右土地を小作地として買収計画を樹てたからその買収計画は違法ではない従つてその違法を前提とする原告の本訴請求は失当であると述べた。(立証省略)

理由

先ず本件買収計画の取消を求める訴の適法性につき按ずるにそもそも行政事件訴訟特例法第二条で採用されているいわゆる訴願前置主義は行政処分につき行政上数段階の不服手段が許されている場合でも最初の段階の不服手段を尽せば足りる趣旨であつてその結果として同法第五条で訴願の裁決を経た場合に出訴期間は裁決のあつたことを知つた日から起算すると定めているのは第一段階の不服手段に対する行政庁の決定があつたことを知つた日からこれを起算する趣旨と解すべきで従つて買収計画につき異議及び訴願の両手段を尽した場合でも買収計画に対する出訴期間は訴願の裁決を知つた日からではなく異議に対する決定を知つた日から起算されるものと謂わねばならぬ。これを本件について観るに鳥取県八頭郡若桜町農地委員会が原告主張の土地につき買収計画を樹立したので原告が異議申立をして同月九日この異議申立を棄却せられ更に被告に対し訴願をしたところ同年六月十日訴願を棄却せられ同年七月二日その旨の通知を受けたことは原告の主張自体に徴して明らかで右事実によれば原告が尠くも訴願棄却裁決の為された同年六月十日以前に異議申立棄却決定の通知を受けてこれを知つた事実を認めることができるのに右異議申立棄却決定を知つた日から自作農創設特別措置法第四十七条の二所定の一箇月の期間を経過し同年七月二十三日に至り本訴を提起した事実は本件訴状に押されてある受付印に徴し明白であるから右訴は出訴期間を経過したもので不適法と謂わねばならぬ。次で訴願棄却裁決の取消を求める訴の適否につき按ずるに凡そ請求の拡張による訴の変更は旧訴の手続中に新訴を併合提起するもので新訴につき出訴期間が遵守せられたかどうかは訴変更の書面提出の時を標準として判断すべきであるところ原告が当初前記買収計画の取消のみを訴求し更に昭和二十三年十一月十日に至り初めて請求の趣旨変更申請と題する書面を提出して訴の変更を為し被告が昭和二十三年六月十日為した裁決を取消す旨の訴を旧訴に附加したことは本件記録上明白であつて一方原告が前記訴願棄却の裁決の通知を受けた日が同年七月二日であることは前認定の通りで同日裁決のあつたことを知つたものと推定すべきであるから右訴願棄却裁決の取消を求める新訴も亦原告が右裁決を知つた日から前記法条所定の一箇月の期間を従過して為されたもので不適法と謂わねばならぬ。よつて原告の本訴請求は全部これを却下すべきものとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決した。

(福永 大倉 柚木)

(目録省略)

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